学術変革領域研究(B) ラダーポリマー科学: 二本の結合が紡ぐ革新

研究概要

ラダーポリマー科学について

高分子科学は、1920年にStaudingerが「高分子説」を提唱して以来、最先端材料科学から生命科学に至るまで広範な分野に深く関与する重要な研究領域として、過去100年以上にわたり継続的に発展してきました。高分子は一般に、「モノマー」と呼ばれる小さな単位が、化学結合によってひも状に連なった巨大分子であり、ビーズが連なったネックレスのような構造としてイメージすることができます。では、

「モノマー単位をつなぐ結合を、もう一本増やしたらどうなるだろうか?」

このような高分子は、主鎖が「はしご」のような構造をもつことから「ラダーポリマー」と呼ばれています。通常のポリマー(1本鎖ポリマー)では、モノマー間をつなぐ結合が1本であるため、結合軸周りで自由に回転できます。その結果、分子全体の構造が不規則になりやすくなります。一方、ラダーポリマーでは、モノマー同士が2本以上の化学結合で連結されているため、主鎖の回転運動が著しく制限され、結果として、分子全体の構造秩序は飛躍的に高まります。この「たった1本の化学結合の追加」がもたらす制限されたコンホメーション挙動により、1本鎖ポリマーとラダーポリマーの物性には決定的な差異が生じうります。  このように、ポリマーに2本目の結合を追加するという極めてシンプルな設計概念は、1本鎖ポリマーをもっぱら扱ってきた既存の高分子科学を構造・機能の両面から大きく進展させる可能性を秘めています。しかし、高分子科学の最先端の技術をもってしても、ラダーポリマー合成は依然として困難であり、合成例自体が非常に限られているのが現状です。本研究領域では、次世代の革新物質の創出を牽引する「ラダーポリマー科学」の未来を切り拓き、世界を先導するために、ラダーポリマーの「合成法の技術革新」「構造多様性の飛躍的拡張」「物性解明と高度機能開拓」を目指します。

プロジェクト概要

A01 井改(代表)・篠原(分担)班

本研究では、私たちが開発した「無欠陥ラダー化法」という、分子レベルで規則的なはしご構造(ラダー骨格)を構築する技術をもとに、「らせん」や「ジグザグ」など明確な二次構造をもつ一連のラダーポリマーを、計算科学と融合しながら精密に合成する手法を確立します。さらに、二次構造を有するラダーポリマーが様々な次元で配列した有機構造体 (Ladder polymer-based Organic Framework: LOF) という新たな物質概念を提案します。これにより、特異なラダー構造とその集合体が生み出す電子・光・磁気特性を活かし、卓越した機能を引き出すことで、新たな物性科学の展開に貢献することを目指します。

井改 : https://ladpoly.chembio.nagoya-u.ac.jp/

篠原 : https://www.jaist.ac.jp/ms/labs/shinohara/index.html

A02 伊藤(代表)・松岡(分担)班

本研究ではラダーポリマー科学の発展と進化を目指し、一番のボトルネックとなっているラダー骨格構築法の開発に主眼をおく。反応・方法論の開発やナノカーボン主体の骨格形成法、in-silico触媒設計法を生かしながら、さまざまな新規ラダー化素反応の開発、ラダー化に適したモノマーの開発と新規ラダー分子・ポリマーの開発を行う。溶液反応だけでなく、メカノケミカル反応を用いたナノカーボン変換・合成を駆使し、これまで合成困難であった共役ラダー骨格、非共役ながらも破格の物性発現が期待されるラダーポリマーや非六員環系ラダー分子の合成法を確立し、ラダー骨格を構築することの意義と意味、従来ポリマーと明確に差別化できるラダーポリマーの特性などを明らかにする。

伊藤先生 : https://synth.chem.nagoya-u.ac.jp/wordpress/

松岡先生 : https://XXXXXXXXXX.jp/

A03 石割(代表)・井田(分担)班

ラダーポリマーは、通常のポリマーよりも優れた電荷輸送特性やミクロ多孔性などを示す、機能の宝庫です。本研究では、私たちのグループで開発した「二面性分子モチーフ」を基盤に、ラダーポリマーの物性のさらなる向上や、新たな物性・機能創発を志向した特殊な化学構造のラダーポリマーを開発します。そして、その物性研究や機能開拓を多角的かつ徹底的に行い、ラダーポリマーの革新機能性物質としてのさらなる可能性を追求していきます。

石割 : https://sites.google.com/view/ishiwarilab/

井田 : http://www.molsci.polym.kyoto-u.ac.jp/

A04 北尾(代表) 班

ラダーポリマーは、多点連結反応によって合成されるため、溶液やバルク反応では常に架橋や枝分かれ構造の形成が問題となります。これを解決するために、私たちのグループでは、多孔性金属錯体(MOF)を用いた鋳型合成法を開発しました。本研究では、本手法の特徴の増幅と先鋭化を行うために、キラルなグラフェンナノリボンやダイヤモンドナノスレッドといった新規ラダーポリマー合成に取り組み、本手法の新たな可能性を提示します。

北尾 : https://unit.aist.go.jp/ncm/ja/member/kitao.html

A05 松本(代表) 班

ケイ素-酸素結合の有する熱力学的安定性や柔軟性、配列制御性などの特異な性質を鍵とする、1)シグマ結合メタセシスを利用したラダー欠陥を生じないラダーポリマー精密合成法の開発、2)配列制御オリゴシロキサンを鋳型とするラダー精密合成法の開発、の2つの研究課題を推進します。これにより、ラダー構造の精密構築に有効な複数の合成アプローチを提示するとともに、構造的多様性に富む新規な含ケイ素ラダーポリマー群を創出します。

松本 : https://unit.aist.go.jp/cpt/ja/groups/008_cpt-orxn.html